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    2022/10/19

    中小企業のためのM&Aのイロハ

    1 M&Aとは何か

     M&Aとは、Merger(合併) and Acquisition (買収)の頭文字を取った用語であり、狭義のM&Aは合併・買収を指しますが、広義のM&Aはより広い意味での企業提携を指します。中小企業にとってのM&Aの主な目的は、①事業拡大又は②後継者不在対策(事業承継)です。
     ①事業拡大について、例えば、栃木県のお菓子屋さんが東北地方に進出したいという場合、馴染みのない地域で一から売れる商品や競業他社などの調査をしたり、適切な店舗立地を探したりするのは容易ではありません。しかし、既に東北地方で複数店舗運営している会社とのM&Aを行えば、同社の市場やノウハウを利用でき、手間と時間を大幅に削減できます。
     ②後継者不在対策(事業承継)については、例えば、親族に事業の引き継ぎ手がいない場合、M&Aにより第三者に引き継いでもらうという方法があり、この場合、現オーナーは売却益を獲得してリタイアできます。

    2 M&Aの登場人物

     M&Aが難しく感じる原因の一つは、登場人物が多いことです。M&Aの登場人物は右図のとおりです。たまにM&A仲介業者のみを関与させて進める案件を目にすることがありますが、仲介業者はあくまで仲介者でありM&Aを成立させることを目的とする立場であるため、売主・買主は、仲介業者以外に、自社のためだけにリスクも含め説明し動いてくれる弁護士も関与させることが望ましいと考えます。その他に誰を関与させるべきかは、案件の特徴、複雑性、ボリューム等を踏まえ、弁護士が案件に応じてアドバイスします。なお、仲介業者や弁護士も含め、関与させる専門家は予め費用を確認し、それぞれきちんと契約書を締結しましょう。

    3 M&Aの基本的な流れ

     M&Aが難しく感じる原因のもう一つは、M&Aには流れがあり一定の時間がかかることです。M&Aの流れは右図のとおりです。中小企業のM&Aの場合、この一連の流れに半年から1年半程度かかることが多いです。会社としてもM&A案件の全体の流れを理解し、今どの段階にあるのか、今後どのように進むのか主体的に把握するようにしましょう。以下では、それぞれの段階について簡単にポイントをご紹介します。

    (1)マッチング
     M&Aの相手を見つける段階です。お互いにもともと知っている企業が結びつく場合と、メインバンク、同業者組合のまとめ役、M&A仲介業者などによる紹介により結びつく場合があります。

    (2)トップ面談
     双方の経営陣による面談を指します。売却、買取に至る経緯を説明したり、経営方針などを確認したり、確認したい点を直接質問したりします。弁護士や税理士が同席することもあります。

    (3)秘密保持契約書締結
     具体的な情報(決算書、契約書、給与台帳等)を公開する前に必ず秘密保持契約書を交わします。M&Aは途中頓挫するケースも多いので、情報の保護は必須です。秘密保持契約書の作成は弁護士に依頼してください。

    (4)基本合意書締結
     独占交渉権とその期間を記載することが一番のポイントです。条件の大枠や今後のスケジュールを記載することもありますが、これらに法的拘束力はないとすることが多いです。なお、小規模又は時間の限られたM&Aではこのプロセス自体を省略することもあります。

    (5)デュー・デリジェンス(DD)
     デュー・デリジェンス(DD)とは、買主が対象会社のリスクや価値を調査することをいいます。主には財務DDと法務DDがあります。DDは、M&Aの可否を判断し、M&Aの対価を算定し、M&Aした場合のリスクを判断するために非常に重要なプロセスです。例えば、椅子を買うだけであれば、椅子のデザイン、強度、傷や不具合の有無など、目で見て、実際に座ってみて確認できますが、会社を買う場合には、その中身は非常に複雑で、目で見ただけでは分からないので、DDにより中身の調査をする必要があります。税務については、未払の税金はないか、退職金債務の引き当てがあるか、売掛金のサイクルが長すぎないかなど、法務については、事業に必要な許認可が取得できているか、事業に必要な資産に問題はないか、事業のために必要な契約はあるか、紛争リスクがないかなどの調査を行います。
     基本的に、財務DDは公認会計士又は税理士が、法務DDは弁護士が行います。手法としては、開示資料の検討、書面による質疑応答、関係者に対するインタビュー等を行い、最終的にDDレポートを作成・提出します。
     DDについては、コストを心配される方も多いと思いますが、DDの範囲を重要な点に絞ることで、コストと時間を節約できます。

    (6)適正なM&A対価の算出
     対価の評価手法は複数あります。主なものとしては、対象会社の将来の収益獲得能力から価値を算出する「DCF法」「収益還元法」、対象会社の貸借対照表上の純資産から価値を算出する「時価純資産法」、中小企業のM&Aで現実的に用いられることがある年買法(時価純資産+営業権(年間利益×3年程度)=株式価値)があります。いずれを選択するかを含め、公認会計士又は税理士と相談し決定します。

    (7)条件調整
     例えば、法務DDの結果、従業員に対する相当額の未払残業代がある可能性が判明したとします。この場合、M&A自体をやめるという選択肢もあり得ますが、もし継続する場合には、未払い残業代がないことを表明保証させクロージング後に問題発生した場合には売主に損害賠償請求する、未払い残業代相当額を対価から減額するなどの条件調整を行います。

    (8)最終契約書
     M&Aの成立を基礎づける非常に重要な法的拘束力のある契約書です。本契約書の作成・レビューは弁護士に依頼すべきです。本契約書の留意点は様々ありますが、特に重要なのは、表明保証及びクロージングの前提条件です。表明保証は、例えば、重要な従業員の雇用が継続していること、重要な取引先との契約が継続していることなど、買主にとって重要な事項を適切に記載します。クロージングの前提条件は、対象会社において譲渡承認決議がなされていること、表明保証した内容が真実であること、買主が融資を受けられたことなど、クロージングの前提条件となる事項を記載します。また、最終契約書と同時に関連する契約書(売主からの不動産購入、売主との間のコンサルティング契約等)を締結することもありますので、これらも忘れないようにしましょう。

    (9)クロージング
     クロージングは取引銀行や法律事務所で行うことが多いです。クロージングまでに前提条件が充足できない場合など、クロージング日を再調整することもあります。

    4 M&Aの基本的スキーム

     中小企業のM&Aで多く用いられる手法は、①株式譲渡又は②事業譲渡です。
     ①株式譲渡は、会社の株主が変更になるだけなので、取引先や従業員との契約に変更がなく手間が少ないのがメリットです。また、株価は企業価値で評価するため(負債はマイナス考慮される)、対価が抑えられることも多いです。もっとも、少数株主がいると承諾を得られないリスクがあります。
     ②事業譲渡は、事業単位の取得であるため、例えばある会社の優良部門だけ買えることがメリットです。資産ごとの価格の合計が対価になるため、取得代金は高額になりやすい傾向があります。取引先や従業員とは再契約が必要で、許認可も再取得が必要なので、株式譲渡に比べて手間がかかります。
     また、課税関係についても、①株式譲渡の場合、売主たる株主が個人の場合、譲渡益に対し譲渡所得税(20.315%)が課される、②事業譲渡の場合、売主側は譲渡益に対し法人税が課され、買主側は譲受資産に課税資産(在庫、土地を除く有形固定資産、営業権等)が含まれている場合は消費税が発生するなどの違いがあります。
     このように、選択するスキームにより法律関係及び税務関係が異なるので、M&Aの初期段階でどのスキームを取ることが有利か、弁護士・税理士・公認会計士等と相談することが肝要です。

    5 まとめ

     M&Aのイロハをご理解いただけたでしょうか。弁護士の立場からすると、M&Aについては、その流れや流れの中で判明してくる問題点の把握が重要であるため、なるべく早い段階でご相談をいただけた方が、適切にアドバイスができると感じます。M&Aを検討し始めたらなるべく早く弁護士に相談することを最後のポイントとしてご理解いただければ幸いです。