⑴ M&Aを行う場合 NDAを必ず締結する必要のある場面としては、まず、M&Aがあります。
M&Aにおいて開示する企業の情報は、一般の商取引とは比べものにならないほど、膨大かつ重要な情報であるため、秘密情報を開示する前に、必ずNDAを締結する必要があります。
情報の重要性に鑑み、NDAによって保護される秘密情報の範囲、開示される当事者の範囲、違反した場合のペナルティについては厳格に記載することが求められます。
M&Aの手続が、最終契約に至った場合においては、最終契約書の中で改めて秘密保持条項が設けられることが一般的です。
なお、M&Aの基本的な流れ等については、前回のニュースリリースで、新田弁護士が解説をしていますので、下記URLをご参照ください。
中小企業のためのM&Aのイロハ|宇都宮中央法律事務所 (utsunomiya-law.com)⑵ 取引先との業務提携の事前検討・交渉を行う場合 複数の取引先からどこと契約を締結するか、まずは、互いに情報を共有して事前検討・交渉を行うことが必要なケースにおいては、情報を開示する前にNDAを締結することが一般的です。
この場合、取引の内容によって、当事者双方が情報開示をするケースと一方当事者のみが情報開示するケースがあります。NDAを締結する場合には、どちらのケースであるのかを踏まえ、それに即したNDAであることを確認する必要があります。
また、秘密情報を開示する目的も多種多様であることが多いため、「ABC商品開発に関する業務提携の検討のため」など目的の範囲はなるべく具体的に限定して記載するようにし、秘密情報の目的外使用を禁止する条項も設けるべきです。
その他、基本契約書などではよくある有効期間についての「自動更新条項」を設けるべきではなく、1年間など、事前検討・交渉に必要な期間に限定した上で、必要に応じて当事者間の協議により延長できるようにしておきます。
⑶ 取引先と継続的な基本契約を締結する場合 取引先と業務委託基本契約書、取引基本契約書等を締結する場合には、当該基本契約書の中に既に「秘密保持条項」が設けられていることが一般的です。
このような場合、基本契約書とは別途、NDAを締結すべきなのか、悩まれることもあるかと思います。
この点については、当該取引先との関係性や、開示又は開示される秘密情報の内容により異なりますが、継続的(長期的)な取引であることを踏まえれば、基本契約書とは別に、NDAを締結することがベターといえます。
なぜなら、基本契約書にある「秘密保持条項」のみでは、一般的にNDAに記載されるべき条項が不足していることが多く、秘密情報の保護として不十分となる可能性があるからです。
このような観点からは、既に基本契約書等を締結済みの取引先であっても、秘密保持条項が不十分であると考えられる場合には、更新契約書を作成する際などに、併せてNDAを締結することも有用です。この場合、NDA締結前に開示した秘密情報についても、秘密情報として取り扱うなどと定めておくとよいでしょう。
⑷ 役員や従業員と締結する場合 NDAというと取引先と締結するイメージが強いかと思います。
しかし、独立行政法人情報処理推進機構が実施した調査によれば、企業の情報漏洩は、中途退職者による漏洩(36.3%)が最も多く、次いで、現職従業員等の誤操作・誤認等による漏洩(21.2%)となっており(※)、企業として内部の役職員との間でNDAを締結する必要性は高いといえます。
企業の役員は、会社法及び委任契約上、従業員については、雇用契約上、当然に会社に対して、守秘義務を負うこととなります。
しかし、役員や従業員(とりわけ、研究者や技術者など)に対し、秘密情報の重要性を認識してもらい、取扱いに十分留意してもらうという意味において、NDAを締結しておくことは重要です。
この場合、何が秘密情報に該当するのか、秘密の管理はどのように行うのか等について決めておき、役員や従業員に対して、具体的な秘密情報についての法的義務が発生するようにすることが大切です。
役員や従業員とNDAを締結するタイミングとしては、一般に、入社時、プロジェクトの開始・参加時、退社時があげられます。その他、副業を認めている企業においては、副業開始時などに締結することも考えられます。
NDAの締結まで、役員や従業員に要求することが難しく、現実的でないという場合には、最低限「秘密保持誓約書」に署名して提出させることも有用です。
※独立行政法人情報処理推進機構「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020調査実施報告書」28頁より引用