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    2023/07/20

    令和6年4月から!事業者の障害者に対する義務

    1 はじめに

     皆様は障害者差別解消法をご存じでしょうか。正式名称は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」で、平成25年6月に成立し、平成28年4月に施行されました。この法律は、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的としています。この法律が改正され、令和6年(2024年)4月1日から新たに事業者の義務が定められたため、今回はこの改正についてご紹介します。

    2 障害者差別解消法

    (1)法制定の背景
     障害を理由とする差別の禁止は、障害者基本法第4条第1項において、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」として定められています。しかし、障害者基本法では、抽象的に差別を禁止するだけで、具体的な規定はありません。
     そこで、差別の禁止を具体的に実現していくために制定された法律が、障害者差別解消法です。今回は触れませんが、他にも、障害者総合支援法や障害者雇用促進法等様々な関係法律が制定されています。

    (2)障害者差別解消法の概要
     障害者差別解消法は、行政機関や事業者に対し、障害者への「不当な差別的取扱い」を禁止し、「合理的配慮の提供」を求めています(第7条、第8条)。
     この法律において、障害者とは、身体障害、知的障害、精神障害のある人、その他心身の機能の障害がある人で、障害や社会的障壁により継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人のことをいいます(同法第2条第1号)。すなわち、障害者手帳の所持者には限られません。

    (3)「不当な差別的取扱い」の禁止
     「不当な差別的取扱い」の禁止とは、行政機関や事業者が、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止することをいいます。障害があることを理由として、障害者を受け入れない又は接遇の質を下げることがこれにあたります。
     ここで、正当な理由とは、当該行為が、①客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、②その目的に照らしてやむを得ないといえる場合をいいます。正当な理由に該当するかどうかは、個別の事案ごとに障害者、事業者、第三者の権利利益や行政機関の事務・事業の目的・内容・機能の維持等の観点から、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する必要があります。
     この判断は、個別に判断することが重要視されており、たとえば同一の障害を持つ人であっても、それぞれ個別の事情があるため、ある障害をもつ者に対して画一的に正当な理由を定めることは出来ません。なお、正当な理由を判断するために、障害者に対して、障害の状況等を確認することが重要ですが、その際には十分プライバシーに配慮し、必要な範囲で確認すべきです。
     そして、正当な理由があると判断された場合には、障害者に対して、その理由を説明し、理解を得るよう努めることが望まれています。

    (4)「合理的配慮の提供」
     「合理的配慮の提供」とは、障害者から、社会的障壁の除去を必要としているとの意思が伝えられたときに、過度な負担でない限りこれに対応することをいいます。たとえば、難聴のため筆談によるコミュニケーションを希望された場合に、これに応じる、といったことが「合理的配慮の提供」です。
     合理的配慮は、事務・事業の目的・内容・機能に照らして、①必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、②障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、③事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの3つを満たすものであることが求められています。つまり、飲食店において、食事介助を求められた場合、飲食店は食事介助を事業の一環とはしていないので、これに応じる必要はありません。
     また、過度な負担かどうかの判断は、個別の事案ごとに①事務・事業への影響の程度、②実現可能性の程度、③費用・負担の程度、④事務・事業規模、⑤財政・財務状況等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。「不当な差別的取扱い」における正当な理由の判断と同様、個別に判断すべきであり、画一的な取扱いを行ってはいけません。そして、前例がないこと、漠然としたリスクがあること、等は「合理的配慮の提供」をしない理由とはなりません。

    (5)改正の内容
     これまでは、「合理的配慮の提供」は、行政機関に対しては義務とされ、事業者に対しては努力義務とされていましたが、今回の改正により、事業者に対しても「合理的配慮の提供」が義務化されました。

    3 改正に伴い事業者に求められる対応

    (1)事前の対応
     事業者は、各障害者に対する合理的配慮が適切にされるよう、あらかじめ法律の内容、障害特性や合理的配慮の具体例を知っておくと役立ちます。障害特性や合理的配慮の具体例については、内閣府の「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」(https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/)が参考になります。また、事業者に向けて、事業を所管する国の行政機関が対応指針を定めているため、内閣府ホームページの各対応指針(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioshishin.html)を参照することも有用です。
     これらを参照したうえで、社内マニュアルの確認、従業員への研修の実施、施設・設備の見直しを行っておくとなお良いとされています。このような事前の措置は、あくまで努力義務となっていますが、障害者が多数見込まれる場合や障害者との関係が長期にわたる場合には、都度合理的配慮を検討し提供するのではなく、環境の整備を行うことが効果的です。

    (2)実際の対応
     今回の改正で事業者に求められていることは、主に個々の場面で合理的な配慮が求められた場合に適切に対応することです。
     障害者から何らかの対応を求められた場合には、障害者と事業者とが対話をし、両者が実現可能な対応策を考えることが重要です。たとえば、精神障害のある人から、大勢の人がいるところで順番待ちをすることが困難であるため別室での順番待ちを求められたが、別室の確保が難しいような場合、別室の確保が出来ないことを理由に対応をしないのではなく、パーテーションで待合室を簡易に区切ってスペースを作り、その場所での順番待ちが出来るようにするといった対応が必要となります。
     すでに述べたとおり、「合理的配慮の提供」の義務化は、過度な負担を義務化するものではありませんので、事業者にとって過度な負担となることや通常刑罰の対象となる行為をも許容する必要はありません。

    4 罰則規定

     事業者が「不当な差別的取扱い」を行っていたり、「合理的配慮の提供」をしていなかったりしており、自主的な改善を期待することが困難な場合には、国の行政機関に報告を求められたり、助言、指導又は勧告をされる場合があります(障害者差別解消法第12条)。そして、このときに報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料が課せられます(同法第26条)。

    5 おわりに

     ここまでお話してきたように、障害者差別解消法が求めている対応は、障害者の事情やそのときの技術発展状況等により常に変化し、絶対的なものではありません。実際に対応を考える際には、事業者と障害者どちらか一方を重視するのではなく、双方が理解・納得出来るような結論を探すことが大切です。前例や偏見にとらわれず、目の前にいる障害者が、障害のない人と同じように過ごせるためには何が出来るかという視点を持つことが求められています。