1 売り手側から見たM&Aのポイント
(1)売り手側から見たM&Aのゴールは、「クロージング」です。
クロージングまでのM&Aの基本的な流れについては、当事務所のコラム
「中小企業のためのM&Aのイロハ」(2022年10月19日・新田裕子弁護士執筆)で解説しています。
クロージングのほかには、M&Aの最終契約書には通常「表明保証」条項があります。これは、当該表明保証した内容が真実であることを約束するとともに、表明保証条項に違反した場合のペナルティが定められます。
このため、クロージング後であっても、表明保証したことが事実でないと判明した場合、売り手側に責任が生じる場合があり、表明保証条項は極めて重要な条項です。最終契約書締結前に内容を十分に確認し、事後に表明保証条項に違反することが無いよう、懸念事項等は買い手側との間での情報共有や条項修正の協議等をしてく必要があります。
(2)最終契約書等の契約書サンプルについては、「中小M&Aガイドライン(第2版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(2023年9月、中小企業庁)の参考資料などで示されています。これらを参考としながら、事案に応じたアレンジをすることが適当です。
2 買い手側から見たM&Aのポイント
(1)買い手側から見た場合、売り手側とは異なり、クロージングは必ずしもゴールではありません。当たり前のことですが、M&Aの買収対価は株主等のオーナーに支払われるものであって、M&Aの対象企業には一切支払われていません。クロージング後、対象企業が成長し、利益を生じさせるなどすること、すなわちM&A後の統合のフェーズが最も重要となります。
(2)M&A後の統合については、PMI(Post Merger Integrationの頭文字を取ったもの。「主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なもの」とされています。)と呼ばれ、近時、重視されています。
このPMIに関し、中小企業庁は、2022年3月に「中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~」を公表しました。
このガイドラインでは、①M&A成立までを“プレ”PMI、②M&A成立後から一定期間(1年程度)における取組みをPMI、③その後の継続する取組みを“ポスト”PMIと位置付けています。
M&Aの成立までの段階はPMIの前段階となっており、売り手の選別や企業価値の評価、デューデリジェンス、最終契約書締結といったそれぞれの段階で、その後のPMIに向けた見通しを立て、準備をする段階としています。
(3)以上の通り、買い手側としては、M&A成立後を見据えた対応が重要となりますが、M&Aの際に交わす各種の契約書も、もちろん重要です。
ここでは、最も重要な最終契約書の注意点について少しだけ触れます。
最終契約書では、①クロージングの前提条件、②売り手側の表明保証、③クロージングまでの売り手側の誓約事項、④実行後の売り手側の義務、⑤補償条項等が重要となります。①、③はM&Aを成立させる上で、②、④、⑤はM&A成立後のリスクの確認やリスクヘッジ、PMIの成否にかかわる点で重要となります。