• インフォメーション
  • コラム
  • セミナー
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ
  • EN
  • トップ
  • ご挨拶
  • 業務内容
  • 弁護士等紹介
  • アクセス情報
  • 採用情報
  • お問合わせ
  • 海外展開支援コラム

    2024/01/18

    日本による調停に関するシンガポール条約の締結とその意義

    1 日本による調停に関するシンガポール条約の締結

     以前のコラムで、企業間の国際紛争の解決手段の一つである国際調停について、シンガポール国際調停センター(以下「SIMC」といいます。)の日本代表としての立場も踏まえご説明させていただきました。
     その後、国際調停については大きなアップデートがありました。
     日本は、2023年10月1日、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約(調停に関するシンガポール条約)の加入書を国連事務総長に寄託し、同条約の12か国目の締約国となりました。同条約は、2024年4月1日より日本において効力を生じます。
      調停に関するシンガポール条約は、米国、英国を含め50か国以上の署名国があるものの、締約国はまだ必ずしも多くないため(本コラムの執筆時点である2024年1月16日時点での締約国は、ベラルーシ、エクアドル、フィジー、ジョージア、ホンジュラス、日本、カザフスタン、ナイジェリア、カタール、サウジアラビア、シンガポール、トルコ、ウルグアイ)。日本による同条約の締結は、日本が現在の締約国の中では最大の経済規模国となることもあり、SIMCをはじめ国際調停のコミュニティーからは大きな歓迎をもって受け入れられました。

    2 調停に関するシンガポール条約とは

     調停に関するシンガポール条約は、2019年8月7日にシンガポールで署名がなされ、2020年9月12日に発効したもので、国際調停により成立した和解合意について執行力の付与など共通の枠組みを定めることを目的としています。
     本条約ができる前、国際調停は、当事者間で和解合意ができたとしても、一方当事者がこれを任意に履行しない場合、これを強制的に実現する術がありませんでした。このような問題意識を踏まえ、調停に関するシンガポール条約は、一定の要件を満たした場合、締約国での強制執行ができるよう国際間の共通ルールを制定したのです。例えば、調停に関するシンガポール条約の締約国であるA国企業とB国企業の間の紛争について、SIMCにおける国際調停で和解合意したとして、仮にA国企業が和解合意を任意に履行しなければ、B国企業は、A国内で和解合意の執行を求めることができます。
     国際調停において和解合意をする場合、当事者は履行をするつもりがあって合意をするのが通常なので、成立した和解合意を強制的に実現しなければならないというシナリオはそこまで多くはないかもしれません。しかしながら、国際調停で合意した分割払いを次第に怠るようになる、合意成立後にその内容に不満を持つようになるなどといったことはあり得ないことではなく、このような場合に、調停に関するシンガポール条約は効力を発揮し、また当事者の安心材料ともなります。実際、SIMCでは、調停に関するシンガポール調停条約が発効した後、大きく利用件数が伸びた経緯もあります。

    3 オプトインの留保

     日本の調停に関するシンガポール条約締結に関する重要なポイントとして、日本はオプトインの留保をした、ということが挙げられます。オプトインの留保とは、和解合意の当事者が調停に関するシンガポール条約の適用に合意した場合にのみこの条約を適用することです(調停に関するシンガポール条約第8条1項(b))。すなわち、日本における調停に関するシンガポール条約の効力発生日後であっても、日本企業が関わる全ての国際調停について自動的に本条約が適用され執行の対象となるのではなく、当事者がその適用に合意した場合のみ、本条約が適用され執行の対象となります。したがって、日本企業としては、相手企業の国が本条約の締約国でない場合、自社は相手国で和解合意を強制執行できないのにも関わらず、相手企業は日本において和解合意を強制執行できるという不均衡を避けるため、オプトイン合意をしないという選択肢を取ることが可能になります。
     他方、シンガポールを含む多くの締約国はこのオプトインの留保をしておらず、これらの締約国の企業が同条約の適用の排除を希望する場合には、和解合意の文言上明確に調停に関するシンガポール条約の適用を排除(オプトアウト)しなければなりません(同条約第5条1項(d))。
     日本が、他国と異なり、オプトインしない限り原則的に同条約の適用がないという枠組みを選択したことは、まだ締約国が必ずしも多くない現状において、日本企業にとって同条約の適用を排除したい場面が一定以上あるであろうと想定した上での、より慎重な判断であったのではないかと考えます。日本企業又はその代理人弁護士としては、このように設定された枠組みを正確に理解の上、当該事案においてオプトインすることが自社又は依頼者の利益になるのか否かを正しく判断することが求められます。

    4 調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律

     日本は、調停に関するシンガポール条約の締結に合わせ、同条約を国内で実施するための新法である「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律」も制定しました。同法は、日本における調停に関するシンガポール条約の国内での効力発生日、すなわち2024年4月1日から施行されます。
     同法は、和解合意のうち①当事者又はその親会社の本店が日本国外にある、②当事者の住所・営業所等が互いに異なる国にある又は③当事者の住所・営業所等と、和解合意に基づく義務履行地等とが異なる国にあるという要件を満たす国際的な和解合意について、日本の裁判所が強制執行を許す決定ができることを定めています。すなわち、このような国際和解合意を日本において執行しようとする当事者は、債務者を被申立人として、裁判所に対し、執行決定を求める申立てをし(同法第5条1項)、裁判所は、同法に定める却下事由がない限り、執行決定をしなければならないこととなっています(同法第5条11項及び12項)。却下事由は例えば、国際和解合意に基づく債務の内容を特定することができないこと(同法第5条12項3号)、国際和解合意に基づく債務の全部が履行その他の事由により消滅したこと(同法第5条12項4号)などの限定された事由です。
     また、同法は、調停に関するシンガポール条約についてオプトインの留保をしたことと平仄を合わせ、同法は、国際和解合意の当事者が、条約又は条約の実施に関する法令に基づき民事執行をすることができる旨の合意をした場合について適用する、としています(同法第3条)。
     加えて、裁判所が相当と認めるときは、和解合意書等の日本語による翻訳文を提出することを省略できることも定められています(同法第5条4項)。日本の裁判所に外国語の書面を提出する場合には日本語訳を提出することが原則となっていますが、国際調停の和解合意の多くは英語等の外国語で作成されることが想定されるため、この点の実務に配慮し当事者の負担を軽くする規定で、日本の裁判の国際化への一歩ともなっています。

    5 まとめ

     国際調停は、大企業はもちろん中小企業にとっても、迅速、低コストかつ柔軟に紛争を解決できるツールです。日本が2023年10月に調停に関するシンガポール条約を締結したことで、日本における国際調停の認知度が一層高まり、その利用が拡大することが期待されます。