第1 はじめに
本年5月31日に育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児・介護休業法」といいます。)が改正されました。今回の改正は、子の年齢等に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の義務付け等、事業主において対応が必要となる内容です。そして、本改正は、来年4月1日(一部例外あり)に施行されることとなるため、本稿では、本改正の内容と必要な対応についてご紹介します。
第2 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
1 3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置
⑴ 現行法(改正前)は、3歳未満の子を養育する労働者についてのみ、短時間勤務を利用できるよう措置を講じることが事業主に
義務付けられています。しかし、本改正により、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に関しても、職場のニーズを把握し
た上で柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、労働者が選択して利用できるようにすることが事業主に義務付けられます(改
正法23条の3第1項)。
事業主が講じるべき具体的な措置の内容については、以下のうち、事業主が2つ以上を選択することとされています。
①始業時刻等の変更
②テレワーク(10日/月)
③短時間勤務
④新たな休暇の付与(10日/年)
⑤その他働きながら子を養育しやすくするための措置(保育施設の設置運営等)
上記①~⑤の措置のうち、③短時間勤務の利用については、上述のとおり、3歳未満の子を養育する労働者について、これまで
も義務付けられていたものですので、その利用対象者を3歳以上小学校就学前まで拡大することにより本改正に基づく措置の一つ
として対応が可能です。
そのほかの措置のうち、①始業時刻等の変更とは、(i)フレックスタイム制度、(ⅱ)始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げ
る制度(時差出勤の制度)、(ⅲ)労働者の養育する子に係る保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与が挙げられていま
す。「その他これに準ずる便宜の供与」には、労働者からの委任を受けてベビーシッターを手配し、その費用を負担することなどが
含まれます。
本改正による措置のうち、③の短時間勤務以外の措置(①、②、④、⑤)ついては、義務付けの対象者は、3歳以上小学校就学
前の子を養育する労働者です。
したがって、0歳から3歳未満の子を養育する労働者も対象とするかどうかは任意となりますが、後述3の努力義務を兼ねて、
②テレワークを本改正に基づく措置として講じた上で、0歳から小学校就学前までを対象とすることも一つの方法と考えられます。
⑵ また、上記⑴により講じた措置については、対象労働者に対する個別の周知及び意向確認を行うことも義務付けられます(同条
5項)。
⑶ 当該措置の義務付けについては、施行日は、2025年11月30日までの政令で定める日とされています。施行日は現時点で
未定ですが、施行日までに整備を進める必要があります。
2 所定外労働の制限の対象拡大
現行法(改正前)は、所定外労働(残業)免除の対象を3歳未満の子を養育する労働者としています。しかし、本改正により、
小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大されます(改正法16条の8)。
したがって、施行日(2025年4月1日)以降、小学校就学前の子を養育する労働者に対して、所定外労働を命じることはでき
なくなります。
3 育児のためのテレワークの導入が努力義務化
3歳未満の子を養育する労働者が育児休業をしていない場合について、在宅勤務等(テレワーク)の措置を講ずることが努力義務
として課されることとなります(改正法24条2項)。
4 子の看護休暇の見直し(改正法16条の2・16条の3)
⑴ 看護休暇とは、負傷し又は疾病にかかった子の世話などを行うための休暇であり、現行法(改正前)では、対象となる子を養育
する労働者は、1年度当たり5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)を限度に看護休暇の取得が認められています。
⑵ 本改正により、学級閉鎖や子の行事参加等にも、看護休暇の取得が可能となり、対象となる子についても、これまで小学校就学
前までであったのが、小学校3年生修了まで拡大されることになります。
なお、どのような場合に取得できるかの詳細については、今後省令で定められます。
⑶ また、本改正により、看護休暇を取得可能な労働者について、これまで労使協定に基づいて看護休暇の取得対象外とすることが
できた「勤続6カ月未満の労働者」を、取得対象外とすることができなくなります。
これにより、労使協定により看護休暇の取得対象外とできる労働者は、「週の所定労働日数が2日以下」の労働者のみとなりま
す。
⑷ その他、取得事由の拡大に伴い、看護休暇の名称が「子の看護等休暇」と変更されます。
5 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主の義務に
本改正により、労働者が事業主に対して妊娠・出産などを申し出た場合には、事業主は労働者に対して、仕事と育児の両立に関す
る個別の意向を聴取し、その意向に配慮することが義務付けられます(改正法21条2項・3項)。
この措置の義務付けについても、上記1の義務付けと同様に、施行日は、2025年11月30日までの政令で定める日とされて
います。
第3 育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大
現行法(改正前)では、育児休業取得状況の公表義務については、常時雇用労働者数1000人超の企業とされていました。しかし、本改正により、300人超の企業に年1回の公表義務が課されることとなります(改正法22条の2)
公表すべき内容は、これまでと同様に、公表前事業年度における以下の①または②です。
①育児休業等の取得割合 | ②育児休業等と育児目的休暇の取得割合 |
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育児休業等とした男性労働者の数 配偶者が出産した男性労働者の数 | 育児休業等とした男性労働者の数 + 小学校就学前の子の育児を目的とした 休暇制度を利用した男性労働者の数 配偶者が出産した男性労働者の数 |
引用元:厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」3頁
公表については、自社ホームページ等一般の方が閲覧できる方法で公表する必要があります。厚生労働省は、同省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」(
両立支援のひろば (mhlw.go.jp))での公表を推奨しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533_00006.html
第4 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
1 両立支援制度
本改正により、労働者が家族の介護に直面した旨を申し出た場合、介護休業の制度や両立支援制度などにつき、個別の周知および
意向確認を行うことが義務付けられます(改正法21条4項)。
また、40歳に達した労働者などに対して、介護休業の制度や両立支援制度などに関する早期の情報提供を行うことが義務付けら
れます(同条5項)。
その他、介護休業の申出に関し、労働者に対する研修の実施、相談体制の整備、その他厚生労働省令で定める介護両立支援制度等
に係る雇用環境の雇用環境整備の措置のいずれかを講ずることが義務付けられます(改正法22条4項)。
2 介護休暇の対象範囲拡大
介護休暇とは、要介護状態にある家族の世話を行うための休暇であり、現行法(改正前)では、対象家族のいずれかが要介護状態
にある労働者は、1年度当たり5日(対象家族が2人以上の場合は10日)を限度に介護休暇の取得が認められています。
本改正により、これまで労使協定に基づいて介護休暇の取得対象外とすることができた「勤続6カ月未満の労働者」を、取得対象
外とすることができなくなります(改正法16条の6)。
したがって、勤続期間にかかわらず、雇用開始直後から介護休暇の取得を申し出ることが可能となるため、注意が必要です。
3 努力義務にテレワークを追加
本改正により、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が介護休業をしていない場合に、在宅勤務等(テレワーク)の措置を
講ずることが新たに努力義務として事業主に課されることとなります(改正法24条4項)。
第5 今後の対応について
本改正の内容については、上記のとおりですが、それぞれ施行日までに事業主側で正しく把握し、対応や整備を行う必要があります。
事業主が講ずべき措置の詳細については、今後、厚生労働省のホームページなどで明らかにされると見込まれますので、随時更新情報を確認しながら、検討を進めていくことが良いでしょう。個別の対応について不明な点などがありましたら、当事務所にご相談ください。