2025/04/17
ア 地方公共団体などの行政機関には「法律による行政」という原則があります。この原則に従い、地方公共団体の活動には基本的に法的な根拠・裏付けが求められます。
イ 契約を締結しようとする地方公共団体に、どのようなルールが定められているかの情報の多くは、インターネット経由で入手することができます。
法律・政令・省令については、「e-gov 法令検索」で地方自治法、地方自治法施行令、地方自治法施行規則などの条文が確認できます。
条例や規則は、多くの場合、各地方公共団体のホームページなどで「例規集」として公開されています。例えば、知りたい市区町村の名前を入れて「●●市 例規集」と検索すれば、当該市区町村の条例や規則を確認できます。
一方で、「内規」と呼ばれるような、規則よりも下位の制度の運用や取扱手順等を定める内部規定は、基本的に公開されていません。
(2)契約手続の原則 -原則入札。随意契約は例外的-
ア 地方公共団体と契約を締結する場合、地方自治法などの法令や各地方公共団体の条例、規則等を踏まえることとなります。
地方公共団体と契約を締結するに際しての特徴として、原則として、一般競争入札により契約相手を決めること(地方自治法234条)、が挙げられます。
「一般競争入札」は、不特定多数人の参加を求め、入札の方法で競争を行わせて、最も有利な価格で申込みをした者を契約の相手方とする方式です。
イ 一般競争入札以外には、地方公共団体が特定多数の競争加入者を選んで入札を行う「指名競争入札」や、入札などの競争を経ずに特定の相手と直接契約を締結する「随意契約」がありますが、いずれも特定の条件を満たした場合に限って認められます。
ウ 「随意契約」が認められる特定の条件とは、契約予定価格が少額(契約類型や自治体規模にもよりますが、市町村であれば概ね数十万円~百万円前後)である場合や、契約の性質・目的が競争入札に適さない場合などがあります。こうした条件も法令(地方自治法施行令167条の2)などで定められています。なお、昨今の物価高騰を受け、令和7年4月1日に地方自治法施行令が改正され、少額随意契約の基準額が引き上げられました。この改正を踏まえ、今後、各地方公共団体においても基準額を引き上げる規則改正が行われると予想されます。
「契約の性質・目的が競争入札に適さない場合」の例としては、特定の不動産の購入や特定の物品の調達が必要な場合などがあります。
他には、業務の方向性(例として、新たな建築物を建てる、など)は決まっているが、どのような内容にするかまでは決まっていないときに、企業から提案を受けてより良い提案をした企業と契約をすることが、より適切な場合があり、「プロポーザル方式」(企画競争方式)と呼ばれます。
(3)契約手続きの原則その2 -議会の議決(一定の大規模契約)-
一定の大規模な契約については、契約相手方となる地方公共団体の議会の議決を経る必要があります(地方自治法96条1項5号から8号等)。
昨年、複数の地方公共団体において、法令上、議会の議決を経る必要があったにもかかわらず、議会の議決を経ずに大規模契約を締結していたことが判明し、報道されるなどしました。法令上必要とされる議会の議決を欠く行為は、原則として無効と解されていますので、契約相手方となる企業側としても注意が必要です。
(4)以上のようなことから、地方公共団体と契約を締結する際は、あらかじめ契約の内容や契約手続の法的根拠を確認しておくことが適切です。
地方公共団体と契約を締結する際は、契約の適正な履行を確保するため、原則として、契約保証金を定めて納めなければならない、とされています(地方自治法施行令167条の16)。
このため、地方公共団体と交わす契約書には、契約保証金に関する条項が盛り込まれることが多くあります。
ただ、契約の性質等から契約保証金を納付させる必要が無い場合もあり、こうした場合、契約書には、契約保証金の納付を免除する、といった条項が入ることになります。なお、契約保証金の免除については、通常、各地方公共団体の契約規則や財務規則などに規定されています。
ア 地方公共団体の会計年度は、始期を4月1日、終期を翌年3月31日としています(地方自治法208条1項)。そして、会計年度における歳出(支出)は、原則としてその年度の歳入(収入)をもって充てなければならない(同条2項)、とされています(会計年度独立の原則)。
また、一会計年度の一切の収入・支出はすべて予算に編入し、その予算は年度開始前に議会の議決を経なければならない、とされています(地方自治法210条、211条)。
イ このように、地方公共団体は、年度が始まる前の時点で、年度内に何に対していくらを使えるか、が原則として決まっています。
このため、地方公共団体と契約を締結する場合、継続的な契約であっても、原則として単年度契約となります。
また、年度の途中で、予算作成時に全く予定していなかった新しい契約を締結することや、予定していた契約内容を大幅に増額変更することなどは、民間企業と契約した場合に比してハードルが高いといえます。
上記(2)の例外として、複数年度の長期継続契約ができる場合が定められています(地方自治法234条の3)。
これは、翌年度以降にわたり、電気・ガス・水の供給、電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産の賃借のほか、物品の借入れ等で長期契約をしないと事務の取扱いに支障が生じるようなもので、条例で定めたものが対象となります(地方自治法施行令167条の17)。
ただし、この場合でも、地方公共団体は各会計年度の予算の範囲内の支出しかできません。このため、長期継続契約の契約書には、次年度以降に予算の縮減・削除があった場合に、地方公共団体に契約解除権を認め、地方公共団体が損害賠償責任を負わない旨の条項が入るのが通例です。
契約条項ではありませんが、地方公共団体の権利義務については消滅時効の特例が定められています。
本稿では細かい点までは触れませんが、大きく異なる点を1点ご紹介します。
民法では、消滅時効に関し、単に請求(催告)をするだけでは、6か月間、時効の完成が猶予されるのみで(民法150条1項)、時効の更新(旧民法の時効中断)をするためには裁判上の請求などをする必要があります(民法147条1項)。
これに対し、地方公共団体がする納入の通知及び督促は、時効の更新の効力を有する(地方自治法236条4項)、とされており、期限を定めて支払を督促するだけで、時効の更新がされます(地方自治法施行令171条)。これは、地方公共団体が有するすべての債権について適用されますので、注意が必要です。
ア 和解
紛争となった場合、契約書には書かれていない内容で、紛争の解決について調整し、和解をすることがあります。
民間企業であれば、両者の合意のみで和解ができます。
しかし、地方公共団体が和解をしようとする場合、原則として議会の議決が必要となります(地方自治法96条1項12号)。市区町村などでは、年4回(3か月に1回)程度の頻度で地方議会が開かれるケースも多く、議会のスケジュールに合わせないと和解ができない場合もあり、和解成立に時間を要する場合があります。
イ 損害賠償の額を定めること
地方公共団体が損害賠償義務を負う場合に、損害賠償の額を定める場合、原則として議会の議決が必要となります(同条同項13号)。
このため、地方公共団体に対して損害賠償請求をしても、その額を決めるために、上記ア同様に時間を要する場合があります。
上記(1)には例外として、地方公共団体の議決で、軽易な事項として指定したものは、市区町村長など(首長)の専決処分とすることができます(地方自治法180条1項)。この場合でも、専決処分をした首長は、議会に報告をする義務があります(同条2項)。
上記(1)の和解や損害賠償の額を定めることについては、市区町村ごとの定めによりますが、1件200万円以下の事件などについて、首長の専決処分とされているケースがあります。