2025/04/17
(1)退職後の従業員から、企業に対して、突然、未払残業代等の金銭請求がなされることがあります。令和2年4月以降、未払残業代の時効は2年間から3年間に変わり、将来的には5年間になる可能性もあります。これにより、未払残業代も高額化しやすいため、留意する必要があります。
未払残業代の請求は、企業にとって大きなリスクとなり得るため、退職時には、退職する従業員の未払残業代等がないことも改めて確認した上で、これらの債権債務の不存在についても合意をとりつけておくことができれば望ましいです。
(2)また、退職に際しては、企業の営業秘密や顧客情報などの情報漏洩を防止するため、それらの情報が記載されている書類やデータの返却や消去をすることが大切です。また、併せて、役職や業務内容によっては、守秘義務や競業避止義務について誓約書をとりつけておくべき場合があります。
しかし、退職の際、従業員が誓約書への署名を拒否するケースは少なくなく、その場合に、誓約書への署名を強制することはできません。
このような場合に備えて、退職後の守秘義務や競業避止義務についても就業規則に規定しておくことや、入社時の段階で、退職後の守秘義務や競業避止義務を含めた誓約書を取り付けておくことが有用です。
(3)その他、従業員から、退職時に、消化できていない有給休暇の買上げを請求されることもあります。
有給休暇の買上げは、原則として違法ですが、例外的に、退職時に退職により取得できない未消化の有給休暇を買い上げることは認められています。
もっとも、企業として有給休暇の買上げに応じるべき義務はありませんので、従業員からの請求に応じるかどうかは企業側で判断すれば足ります。
1 前述したとおり、従業員が退職の意思表示を企業に伝える方法に決まりはないため、近年は、退職代行業者を利用して、退職の意思表示をする従業員が増加しています。
2 退職代行業者とは、従業員が自分で退職の手続きを行うことなく、従業員に代わって退職の処理を行うサービスを提供する事業者のことを指します。
退職代行業者に弁護士がついており、弁護士が退職の意思表示の代理や退職条件の交渉を行う場合には法的な問題はありません。
また、従業員が労働組合に加入しており、労働組合の代表者または労働組合の委任を受けた者が組合員のために退職代行を行う場合も問題はありません(労働組合法6条)。
上記のような場合に該当しない退職代行業者については、業務内容によっては、弁護士法72条に違反している可能性があり、企業は、当該業者からの退職の処理に関する交渉等に応じて良いかという点が問題となります。
弁護士法72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業務として「法律事務」を行うことを禁止しており、これに違反すると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金刑が課されることとなります(同法77条)。
同法72条の「法律事務」には、法律上の効果を発生、変更する事項の処理のみではなく、確定した事項を契約書にする行為のように法律上の効果を保全・明確化する事項の処理も含まれると解されており、退職の処理に関する交渉は、「法律事務」に含まれます。
3 そこで、企業は、退職代行業者から連絡があった場合には、以下のとおり対応することが必要です。
(1)適法性の確認
上記2のとおり、退職代行業者が弁護士や労働組合など適法に退職の処理に関する交渉を行うことができる立場であるのか確認が必要です。
確認方法としては、ホームページを検索して運営主体を確認するなどの方法がありますが、判断が難しい場合もあるため、弁護士等の専門家に相談することも必要です。
(2)退職代行業者が交渉等の法律事務を行えない場合
確認の結果、退職代行業者が交渉等の法律事務を行えない場合には、退職の処理に関する交渉を進めることはできませんので、従業員本人から連絡をしてこなければ対応はしない旨を伝え、それ以上対応しないようにすることが重要です。
(3)単に退職の意思を伝えるだけの場合
退職代行業者が単に「使者」として従業員の退職の意思を伝えるだけの場合には、退職の処理に関する交渉ではなく、退職の意思表示の伝達として有効とされると考えられます。
しかし、この場合であっても、従業員本人の真意に基づいていることの裏付けを得るため、従業員本人直筆の委任状や退職届の提出を求めることが必要です。