コラムcolumn

2025/10/16

令和8年1月施行!「下請法」から改正「取適法」へ

1 改正「取適法」の施行

⑴ 本年5月23日、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が公布され、令和8年1月1日に施行されます。
 これにより、昭和31年に公布・施行された「下請法」は、法律名も変更され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称「中小受託取引適正化法、通称「取適法」)となります。
⑵ 今回の改正は、下請法の目的である「下請取引の公正化」と「下請事業者の利益を保護すること」に沿った重要な改正であり、親事業者及び下請事業者それぞれが施行前にポイントを押さえておく必要があります。
⑶ そこで、本稿では、改正「取適法」の概要と企業に求められる対応について解説します。

2 下請法改正の背景・趣旨について

 今回の改正には、次のような背景・趣旨があります。

⑴ 賃上げの原資の確保
 近年の急激な物価上昇や労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、「物価を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保が必要です。

⑵ 適切な価格転嫁の定着
中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要です。

⑶ 不公正な商習慣の是正
 価格転嫁の問題のほかにも、発注者の協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押し付ける商習慣を一掃していくことで、取引を適正化し、価格転嫁をさらに進めていく必要があります。

 このような背景・趣旨を受けて、下請法の改正が検討されました。

3 改正「取適法」の改正事項の概要について

⑴ 法律名・用語の変更
 
 下請法における「下請」や「親事業者」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘がありました。
 また、時代の変化に伴い、発注者である大企業の側でも「下請」という用語は使われなくなっています。
 そこで、用語について、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」を「製造委託等代金」等に改正し、法律名も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改正されました。

 上記変更に伴い、事業者としては、各種社内規程やマニュアル類(コンプライアンスマニュアル等)や帳票類、契約書の用語を確認し、修正する必要があります。

⑵ 従業員基準の追加(取適法第2条第8項、第9項関係)

 改正前下請法においては、もっぱら親事業者(委託事業者)と下請事業者(中小受託事業者)の資本金額により適用範囲を定めていました。
 しかしながら、実質的には事業規模が大きいものの当初の資本金が少額である事業者や、減資をすることによって下請法の適用を免れたり、場合によっては下請事業者に対し増資を求めたりするなどの事例が問題となっていました。
 そこで、改正取適法の適用基準として、従業員数(300人・100人)の基準を新たに追加しました。
 従業員300人超の法人事業者が、従業員300人以下の法人事業者等に委託する場合(製造委託等)に適用される「300人基準」と、従業員100人超の法人事業者が、従業員100人以下の法人事業者等に委託する場合(情報成果物作成委託等)に適用される「100人基準」が新設されました。

 上記従業員基準の追加に伴い、これまで資本金要件を満たさず下請法の適用外とされていた取引であっても、委託事業者、中小受託事業者とも、従業員数(300人・100人)によって、改正取適法の適用対象となることがありますので、施行前に自社及び取引先の従業員数を確認しておく必要があります。

⑶ 適用対象となる委託取引に「特定運送委託」を追加(取適法第2条第5項、第6項関係)
 
 立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされているなど、荷主・物流事業者間の問題が顕在化していましたが、発荷主(メーカーや卸売事業者等)から元請運送事業者への委託は、改正前下請法の適用対象外(独占禁止法で対応)とされていました。
 そこで、改正取適法では、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引についても、適用対象取引として新たに追加し、機動的に対応できるように改正しました。

 荷主として運送事業者に対し物品の運送を委託している委託事業者や、荷主から直接物品の運送を受託している運送事業者においては、改正取適法の規制に沿った準備・対応が求められます。

⑷ 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(取適法第5条第2項第4号関係)

 コストが上昇している中で、当事者間で協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりなど、上昇したコストの価格転嫁についての課題が発生していました。
 そこで、「市価(通常支払われる対価)」の認定が必要となる「買いたたき」行為とは別に、対等な価格交渉を確保する観点から、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為(価格決定の交渉プロセスに着目)を禁止する規定を新設しました。

 価格協議が義務化されたことに伴い、委託事業者側においては、中小受託事業者の求めに応じて価格協議に誠実に応じる義務があり、協議を適切に行わない一方的な価格決定は禁止されます。

⑸ 手形支払等の禁止(取適法第5条第1項第2号関係)

 支払手段として手形等を用いることにより、発注者が受注者に資金繰りに係る負担を求める商習慣が続いていました。
 すなわち、支払日までの60日間に、手形交付による手形期間の60日間が加わり、現金受領までに最大120日間を要するという事態が発生していました。
 そこで、製造委託等代金の支払手段として手形払自体を禁止とするほか、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては、その使用を禁止することになりました。

 改正取適法の施行日である令和8年1月1日以降、手形等による支払いは禁止となり、委託事業者の資金繰りにも影響するため、支払手段に手形等を利用している場合には、速やかな対応・検討が必要となります。

⑹ 面的執行の強化(取適法第5条第1項第7号、第8条、第13条関係)

 改正前下請法においては、事業所管省庁には中小企業庁の調査に協力するための調査権限のみが与えられているにとどまり、また、下請事業者が事業所管省庁(トラック・物流Gメン等)に通報した場合は、報復措置の禁止の対象となっていませんでした。
 そこで、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限を付与するとともに、中小受託事業者が申告しやすい環境を確保すべく、「報復措置の禁止」の申告先として、現行の公正取引委員会及び中小企業庁に加え、事業所管省庁の主務大臣を追加しました。

 これまでの公正取引委員会及び中小企業庁による指導助言のほかに、事業所管所長による指導助言が行われる可能性があり、これまで以上に改正取適法に違反する状況が把握されるようになります。特に、委託事業者においては、改正取適法を遵守する体制の構築が求められます。

⑺ その他の改正事項

 前述の改正事項のほか、物品等の製造委託の対象物品に金型以外の型等(木型や治具等)が追加されたり(取適法第2条第1項関係)、書面等の交付義務について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、必要的記載事項を電磁的方法(電子メール等)により提供可能としたり(取適法第4条関係)など、規制内容の追加や規制対象の拡大が図られています。

 事業者においては、公正取引委員会及び中小企業庁が公表している改正取適法の概要(令和7年5月公正取引委員会・中小企業庁/下請法・下請振興法改正法の概要)を確認するなどして、令和8年1月1日の施行日までに、これまで適用外であった取引が適用対象となっていないかなどをよく確認し準備する必要があります。

4 まとめ

 現在も続く物価上昇や労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇の中で、事業者間において適切な価格転嫁を図ることは急務といえます。
事業者として、サプライチェーン全体での構造的な価格転嫁の実現に取り残されないためにも、令和8年1月1日から施行される改正「取適法」の遵守が強く求められます。
 そこで、本稿で紹介した改正取適法の概要を参照していただき、自社の契約書やマニュアルの見直し、支払条件の見直し、価格交渉体制の整備など、弁護士などの専門家にも相談の上、早急にご対応いただくことをお勧めいたします。