1 はじめに
近年、働き方改革や多様なキャリア形成の流れを受け、企業において、副業・兼業を容認する動きが広がっています。令和5年に厚生労働省が行った調査によれば、従業員の副業・兼業を認める企業は、その予定である企業も含めて3割程度存在します。
人材不足の観点から、複数の仕事を掛け持ちする副業・兼業を認める企業は年々増加しており、また、従業員側からも、個人のキャリア形成やスキルアップの機会として同制度は注目されています。
しかし、企業が副業・兼業を認める場合には、単に従業員の副業・兼業を容認するだけでなく、労務管理やリスク管理のため、各種規則等を整備しなければなりません。
本稿では、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定、以下「ガイドライン」といいます。)や、「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(令和7年3月改訂、以下「パンフレット」といいます。)等を参照しながら、企業が副業・兼業を導入・管理する際に押さえておくべきポイントについて解説します。
2 企業の副業・兼業に対する基本的姿勢
原則として、企業は、従業員が副業・兼業をすることを認めることが適当とされています(ガイドライン6頁)。
もっとも、職場秩序の維持や企業秘密の保護、長時間労働の防止等の観点から合理的な理由がある場合には、企業において、従業員の副業・兼業に制限を設けることが可能です。
3 労働時間管理と健康確保
企業が副業・兼業を認める場合に、課題となり得るものの1つが、労働時間の通算管理と従業員の健康管理です。
(1)労働時間の通算管理
複数の事業場で働く場合、労働時間は原則として通算して管理する必要があります(労働基準法38条)。
たとえば、本業で1日8時間(所定労働時間)勤務し、副業で更に4時間働いている従業員には、労働時間が通算12時間となることから、時間外労働として割増賃金の支払義務が生じることとなります。
各企業は、労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することで、それぞれの事業場での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その労働時間について、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、割増賃金を支払います。上記の例では、副業で働いた4時間に対して、時間外割増賃金を支払うべきこととなります。
もっとも、この規定は、労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者に該当する場合にのみ適用されます。たとえば、労働基準法が適用されない者(フリーランス、共同経営者、顧問等)や、労働時間規制が適用されない者(管理監督者・機密事務取扱者等)には、労働時間の通算管理の必要はありません。
(2)従業員の健康管理
また、事業者が異なっていても、長時間労働が従業員の健康に悪影響を及ぼすおそれはあるため、従業員の健康確保措置を講じる必要もあります(労働契約法5条)。
具体的な対応としては、①従業員から副業・兼業の勤務時間・内容を申告させる制度を設けること、②過労防止のため、労働時間・休日・健康状態を定期的に確認すること、③副業が原因で本業の業務遂行に支障をきたす場合には、就業制限措置を検討すること、等が推奨されています。
なお、そもそも企業には、従業員が副業・兼業をしているかにかかわらず、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等を実施しなければならないとされていることにもご注意ください(労働安全衛生法第7章参照)。
4 就業規則の整備
副業・兼業を認める場合、就業規則の整備は必須です。
具体的には、①副業・兼業の届出・許可の手続、②競業避止・情報漏洩防止の範囲と基準、③勤務時間中の副業禁止規定、④健康・安全上問題がある場合の制限措置、等の記載を検討する必要があります。
厚生労働省のモデル就業規則第68条に副業・兼業の規定例があるため、そちらも併せてご参照ください。
なお、パンフレットにも記載がありますが、モデル就業規則はあくまでも一例であり、副業・兼業を認める企業が必ずこのような規定を作成しなければならないというものではありません。各企業の実態に応じた就業規則の作成・整備を行うことが重要です。
5 従業員の義務と義務違反防止対策
(1)秘密保持義務
従業員は、企業の業務上の秘密を守る義務を負っています。これは、従業員が副業・兼業をしていたとしても、当然に負っている義務です。
(2)競業避止義務
従業員は、一般に、在職中、使用者と競合する業務を行わない義務を負っていると解されています。
(3)誠実義務
従業員は、上記秘密保持義務や競業避止義務を負うほか、使用者の名誉・信用を毀損しない等、誠実に行動することが求められています。
(4)各義務違反防止のための対処法
上記4でも触れましたが、各義務違反防止のため、企業は、就業規則等において、各義務に違反するおそれのある副業・兼業を禁止又は制限することができるようにしておく必要があります。副業・兼業の届出を従業員から受けた場合には、各種義務違反のおそれがないか確認することが大事です。
さらに、業務上の秘密となる情報の範囲、禁止される競業行為の範囲等を、従業員が理解できるようにしておくべきです。具体性をもって指示することで、不注意による義務違反を軽減する効果が見込まれます。
ガイドラインでは、そのほか、従業員に対する注意喚起を行うことも推奨されています(ガイドライン7頁)。ある従業員が本業をA社、副業をB社で行っていた場合を例として挙げます。この場合、A社B社共に、従業員に対して、自社の秘密保持義務に違反しないよう注意喚起をすることはもちろんですが、A社B社それぞれが、自社内で他社の秘密保持義務に違反しないよう注意喚起をすることがより適切であるとされています。
就業規則において定める方法以外にも、現状締結されている従業員との間の誓約書、守秘義務契約等を確認し、必要に応じて再締結することも検討すべきです。
6 おわりに
副業・兼業の推進は、現代社会において強く要請されているものではありますが、その導入に際しては種々の法的なリスクを伴います。副業・兼業を認める場合には、ガイドライン、パンフレット等を参考にしながら、柔軟かつ公正な制度運用を図る必要があります。
現在の制度設計等に不安がある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。