コラムcolumn

2026/03/12

令和8年2月施行 所有不動産記録証明制度の概要と、経営者が知っておくべき実務的ポイント

1 はじめに

 令和8年2月2日、相続登記の義務化に関連して、新たに「所有不動産記録証明制度」がスタートしました。これは、個人又は法人が全国で所有している不動産の一覧(所有不動産記録証明書)を法務局に請求して取得できる新しい制度です。主な目的は相続登記の負担軽減や、登記漏れを防止するため、とされていますが、被相続人以外の個人や法人も証明書を取得できます。
 このため、経営者にとっても、会社所有の不動産管理、M&Aや事業承継に際しての対象会社の資産確認、役員や株主の資産確認などの場面で活用し得る制度です。
 本稿では、制度の趣旨・手続き・活用場面・注意点を整理しつつ、経営実務の観点からの活用可能性について、ご紹介します。

2 制度の背景と趣旨

(1)まず、不動産登記制度とは、土地や建物の所在地・面積・所有者などの情報を公的に記録し、誰でも確認できるようにする制度です。日本では、土地は原則として全て登記されており、建物も未登記のものを除き登記されています。

(2)これまでの不動産登記実務では、土地・建物それぞれ別々に管理されており、ある人物や法人が全国でどのような不動産を所有しているかを一括して把握する仕組みはありませんでした。
 例えば、相続が発生しても、被相続人がどの地域に不動産を所有していたのか確認する方法が非常に限られていました。被相続人が複数の市町村で不動産を所有していた場合には、市町村ごとに固定資産税の納税通知書や名寄帳を確認しなければならないなど、不動産の確認は極めて手間のかかる作業でした。

(3)このような中で、令和6年4月には相続登記が義務化されました。これにより、相続登記手続の対象となる不動産を正しく把握する重要性が高まりました。
 しかし「どこに何を持っているかがまず分からない」という問題から、登記手続が滞ったり、見逃された土地が相続登記されないまま放置されてしまったりする問題が少なからず生じていました。

(4)そこで新設されたのが、特定の登記名義人が登記されている不動産を一覧化して証明する、所有不動産記録証明制度です。
 この制度の特徴は、全国の法務局に散在する登記データを横断的に検索し、特定名義人の所有不動産をまとめて証明書として交付する点にあります。

3 制度の概要と手続きの流れ

 制度の中心となる書類は、法務局が発行する「所有不動産記録証明書」です。この証明書には、特定の者が所有権の登記名義人として記録されている土地・建物が一覧で記載されます。
(1)請求できる人
 請求できる人は、次のとおりです。
 • 所有権の登記名義人(法人を含みます。)
 • 上記の相続人その他の一般承継人(法人を含みます。)
 • これらの者から委任を受けた代理人(弁護士・司法書士等)

(2)請求方法
 請求手続は、全ての法務局・地方法務局(支局・出張所を含みます。)で、書面又はオンラインで請求可能です。書面で請求する場合には、郵送での請求もできます。
 手数料は検索条件1件につき1通当たり1,470円〜1,600円で、検索条件が複数にわたる場合(例えば、過去の氏名や過去の住所でも検索する場合など)は件数分の料金がかかります。

(3)証明書の内容と交付
 交付される証明書には、次の項目が記載されます。
 • 請求人の情報(請求人の資格、氏名又は名称及び住所)
 • 検索対象者に関する検索条件(氏名又は名称、ローマ字氏名、住所、会社法人等番号)
 • 検索条件に基づきシステムから抽出された不動産の情報(管轄登記所、種別、不動産の所在等)

4 制度の活用場面 ― 企業実務にどう役立ち得るか

(1)経営者・役員の資産把握
 経営者や役員が複数の不動産を保有している場合、金融機関などからの資産を開示するよう求められた場合の証明書類として利用するなど、経営者・役員の資産把握が必要となった場合の証明書類として、有用となる場合があると考えられます。

(2)M&A・事業承継対応
 M&Aや事業承継においては、対象会社が所有している不動産の正確な把握は不可欠です。
 対象会社の決算書を見れば、基本的には所有している不動産は確認できますが、今後は、決算書だけでなく、所有不動産記録証明書を併せて確認する、といった活用方法が考えられます。

(3)取引先からの債権回収に際しての財産調査の一方法
 あくまで取引先の協力が前提とはなりますが、取引先からの債権回収に際しての財産調査の一方法として、所有不動産記録証明書の提出を受ける、といった方法が考えられます。
 取引先がどのような不動産を所有しているかを確認するための有用な方法になり得ます。

5 実務的な注意点とリスク

本制度は活用するに際しての、いくつかの注意点があります。
(1)対象は「登記されている不動産」のみであること
 この制度で証明されるのは、あくまで登記された不動産です。
 未登記の建物や、登記名義変更が何代にもわたって放置されており、検索対象者に共有持分はあるものの登記されていない不動産は、一覧には出てきません。
 このため、本制度を活用する場合は、固定資産税通知書(固定資産税評価証明書)や名寄帳等、他の資料も併せて確認することが重要です。

(2)検索条件の精度が結果に影響すること
 所有不動産記録証明書は、検索条件(氏名や住所)に基づいて検索されるため、検索対象者の旧姓や過去の住所を事前に調査し、正しく検索条件を設定する必要があります。
 検索条件に誤りや漏れがあると、正確な情報を入手することはできません。

(3)制度は万能ではないこと
 所有不動産記録証明書に記載されているのは、あくまで登記情報の一覧であって、抵当権や地役権などの権利関係は含まれていません。詳細な権利関係を確認するには、別途、登記事項証明書を取得する必要があります。

6 まとめ

 令和8年2月2日よりスタートした「所有不動産記録証明制度」は、経営者の資産把握、M&Aや事業承継における活用、債権回収に際しての財産調査など、企業・経営者にとっても活用し得ると考えられます。
 一方、証明の対象外となる財産の存在や、正しい検索条件を設定する必要があることなど、実務的な注意点も少なくありません。
 対象会社や取引先などが所有する土地・建物として何があるか、といった情報を正しく把握することは、経営判断の第一歩です。
 まだ、始まったばかりの制度ですので、今後、企業実務に活用できる場面が研究・検討されていくと思われます。情報収集のアンテナを張っておきながら、自社にとっての活用の可能性を検討することをお勧めします。