コラムcolumn

2026/03/12

求職者等に対するセクハラ対策の義務化

第1 はじめに

 2025年6月に労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(以下「改正法」といいます。)が公布されました。この改正により、求職者等に対するセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」といいます。)を防止するための必要な措置が、事業主の法的義務として明確化されました。施行日は政令で定められますが、パブリックコメント資料では2026年10月1日施行(予定)とされています。
 そこで、本稿では、求職者等に対するセクハラを含む就活ハラスメントや、改正法により義務化される求職者等に対するセクハラを防止するための必要な措置の内容などについて解説します。

第2 就活ハラスメントとは

1 就活ハラスメントとは
  
 就活ハラスメントとは、採用する企業やその採用担当者等が優越的な立場を利用して就職活動中の学生に行うハラスメントのことをいいます。
 事業主による就活ハラスメント防止対策は、改正法が公布される以前から、厚生労働省の指針において望ましい取り組みとされてきましたが、法律上明示されていませんでした。

2 就活ハラスメントの実態

 厚生労働省が実施した「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」では、就活セクハラについて、インターン中の被害経験率は30.1%、就職活動中の被害経験率は31.9%と、約3人に1人が被害経験しているという実態が明らかになりました。
 加害者の属性としては、就職活動中では、「OB・OG訪問を通して知り合った従業員」が38.3%と最多でした。
 一方、同調査では、就活生等に対するセクハラについて、「取組を実施していない」企業が47.6%という結果も明らかとなりました。

3 改正法の概要

 職場におけるセクハラ防止措置義務については、男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます。)第11条に規定されていましたが、同条の「労働者」に求職者等は含まれておらず、直接の保護対象として明示されていませんでした。
 今回の改正法により、新たに求職活動等における性的な言動に関する措置義務が明文化されました(新設・均等法13条)。   
 改正法は、企業規模を問わず、全事業主に適用されるため、未整備の企業は、体制の整備が必要となります。
 なお、今回の改正法では、就活ハラスメントのうち、就活セクハラ防止措置についてのみ義務化するものであり、就活パワハラ防止措置は義務化されていません。同じハラスメントでも、セクハラとパワハラで法的保護のレベルが異なる点に注意が必要です。 
   

第3 就活セクハラ防止対策の内容

1 改正法の内容
   
 改正法により、事業主は、求職者その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの(以下「求職者等」といいます。)によるその求職活動その他求職者等の職業の選択に資する活動(以下「求職活動等」といいます。)において行われる当該事業主が雇用する労働者による性的な言動(以下「求職活動等におけるセクハラ」といいます。)により当該求職者等の求職活動等が阻害されることのないよう雇用管理上必要な措置を講ずべき義務を課されます(新設・均等法第13条)。
 2026年1月20日、改正法に基づく省令案及び「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針案要綱」が公表されたため、それを踏まえ、以下、解説します。
 なお、本稿執筆時点(2026年3月現在)では、いずれも案ではありますが、今後正式な省令及び指針が出される見込みです。

2 求職者等とは

 求職者のほか「その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの」のうち「これに類する者」とは、求職者以外の者であって、次に掲げる者「1 事業主の実施する労働者の採用に資する活動に参加する者」、「2 教育実習、看護実習その他の実習を受ける者」とされています。
 上記省令の第1号は、事業主が行うOBOG訪問や説明会等の活動に参加する者を想定し、同第2号は、教育課程において行われる教育実習や看護実習等を受ける者を想定しています。

3 求職活動等とは

 求職活動等とは、求職者が行う求職活動や求職者に類する者が行う職業の選択に資する活動を指し、例えば、以下のものが含まれるとされています。
 ・企業の採用面接への参加
 ・企業の就職説明会への参加
 ・企業の雇用する労働者への訪問
 ・インターンシップへの参加
 ・教育実習、看護実習等の実習の受講

4 「労働者」による「性的な言動」とは

 「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てを指します。
 また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、その雇用する労働者と同様に、後記6記載の措置を講ずることが必要です。
 「性的な言動」とは、「性的な内容の発言」及び「性的な行動」を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれます。
 なお、当該言動を行う者には、事業主も想定されるため、事業主による「性的な言動」についても必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましいとされています。

5 事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容 
   
 事業主は、次の措置を講じなければなりません。

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発


ア 求職活動等におけるセクハラの内容及び求職活動等におけるセクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること

イ 求職活動等におけるセクハラに係る性的な言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること

ウ 求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、これを労働者及び求職者等に周知・啓発すること


(2)相談(苦情を含みます。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備


ア 相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知すること

イ アの相談窓口の担当者が相談に対し、その内容で状況に応じ適切に対応できるようにすること


(3)求職活動等におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応


ア 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

イ アにより、求職活動等におけるセクハラが生じた事実が確認できた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

ウ アにより、求職活動等におけるセクハラが生じた事実が確認できた場合、行為者に対する措置を適正に行うこと

エ 改めて求職活動等におけるセクハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること 


(4)(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置


ア 相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者及び求職者等に対して周知すること

イ 労働者が事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

第4 最後に

 企業にとって採用活動は、社会と接する最前線であり、そこでの対応は、企業の社会的信用に直結するものといえます。人手不足の昨今、採用活動に力を入れている企業は少なくないところ、採用競争において勝ち抜いていくためには、法改正前に、求職者等に対するセクハラ対策のみならず、就活ハラスメントについても対策に着手することをお勧めします。対策の内容についてお困りのことがあれば、当事務所にご相談ください